MusaRai
桜梅桃華@女装・TSF小説
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残業の果てに辿り着いた、僕の新しい世界:4

スーツの下に秘めた赤色

日曜の夜。

机の上に置かれた小さな紙袋が、部屋の中でやけに存在感を放っていた。

中身は真っ赤なブラとパンツ。

金曜の夜、瑠衣から手渡された時の笑顔が目の奥に焼き付いて離れない。


――――――――――――

「レンくんに似合いそうな下着を用意しておいたんだ。月曜はこれを着けて出勤してね。」

その場にいた真帆と茜も、意味ありげに笑っていた。

事務服姿の僕が女子トイレから出る写真を撮られている僕には、選択肢なんて存在しない。

――――――――――――


休日中は見て見ぬふりをしていたその紙袋を開ける。

指先が微かに震えて、赤い布が視界に溢れた瞬間、思わず息を呑む。

鮮やかなレースの縁取りが、部屋の暖色の照明の下で妖しく光っている。


男の一人暮らしの部屋にはあるべきではない異物。


これを……明日、一日中?


◆


月曜の朝。いつもより眠りが浅かった気がする。

シャワーを浴びても、胸の奥のざわつきは消えなかった。

濡れた髪から滴る水が床を打つ音だけが、やけに響く。


タオルで体を拭き、袋から下着を取り出す。

まずはブラ。肩にストラップをかけると、ひんやりした感触が濡れた肌に張り付いた。

背中でホックを探し、指先が迷いながらも「カチリ」と小さな金属音を立てて留まる。

その瞬間、肩ひもが軽く食い込み、胸元のカップがほんの少しだけ不自然な膨らみを作る。

ワイヤーが胸の下を押し、位置を直そうと指を入れれば、布越しに肌が吸い付く。


次はパンツ。

両手で布を広げ、足を通す。

冷たい布が太ももを撫で、腰まで引き上げた瞬間、下腹部をきゅっと包み込む。

普段の下着では絶対に味わわない、妙な収まり方。

締め付けなのに、どこかやわらかく優しい感触が、逆に落ち着かない。


鏡の前に立つ。

鏡の中に見慣れた自分の顔と、真っ赤な下着が映っている。

下着と同じぐらいの色に自分の頬が染まるような気がして、視線を逸らした。


◆


その上からスラックスを穿き、白いカッターシャツのボタンを留め、ジャケットを羽織る。

パッと見はいつも通り。

……でも、胸元には赤い影。

光が当たる角度によって、カッターシャツが淡く色づく。

気付く人は気付くかもしれない。


駅まで歩くたび、胸のワイヤーがわずかに上下する。

パンツのレースが腰骨を擦り、細いゴムが動くたび、体の奥に小さな熱が生まれる。

普段と同じ道、同じ朝なのに、全てが違って感じる。


満員電車に揺られる。

背中越しに人が押してくるたび、ブラが肩にずれる。

前に立つ男性が視線を胸元に落とした気がして、胸がぎゅっと締め付けられるようだった。

……いや、ただの思い過ごしかもしれない。

でも、そう思おうとするほど、さらに胸の奥が苦しくなる。


◆


会社に着き、いつも通り挨拶をしながらデスクへと向かう。

真帆と廊下ですれ違った。

軽く会釈を返すだけで特に何も言われない。

デスクに着き、メールを確認し、資料を開く。

……なのに、下着の感触が思考を中断させる。椅子の背もたれがブラのホックに押し当たり、肩ひもが微かに引っ張られる。

資料を開いても、画面の文字が目に入らない。

脳の片隅で、常に下着の存在が脈打っている。


「レンくん、あそこの棚の上の奥にある段ボール、取ってくれない?」


瑠衣の声が背後から落ちてきた。

胸が一気に熱くなる。

「は、はい……」と答え、脚立を持ち出す。


脚立に足をかけ、腕を伸ばして棚の奥を探す。

そのとき――耳元で小さく低い声が囁かれる。


「ズボンにパンツのラインがくっきり見えてるよ。みんなに女の子の下着を着けてるって、バレちゃうよ」


はっとして後ろを振り返ると、瑠衣が小さく笑っている。

スラックスが張り、お尻の曲線に沿って、パンツのラインが浮き出ている。

男性のそれではありえない、やわらかな縁取り。


一気に顔が熱くなる。

視線をさらに後ろに動かせば、茜も真帆も、にやにやとこちらを見ている。


「ほら、段ボール、落とさないでね」


瑠衣の声が耳元に届く。

僕は慌てて段ボールを引き寄せる。腕に力を込めるたび、ブラの肩紐が食い込む。

お尻の下着のラインが気になって、視線を外したくなる。

でも、もう手を止めるわけにはいかない。素早く段ボールを引き寄せ、脚立から降りる。


「レンくん、ありがとう。助かったよ」


短く、軽やかな礼。瑠衣はそのまま離れて行く。

僕の心臓はまだ収まらない。

ふと気づけば、汗ばんだ手のひらと、下着の感触だけが残っていた。


……まだ、僕の長い一日は、ほんの始まりに過ぎないのだ。


【5章へつづく…】

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