MusaRai
桜梅桃華@女装・TSF小説
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メンズメイク体験から始まった、僕の女装堕ち:6

掌の中の“彼女”

朝の光が、カーテンの隙間から柔らかく差し込んでいる。

静かな部屋の中、昨夜の余韻だけがまだ体の奥に残っていた。

凜はすでに起きていて、キッチンから小さな音が聞こえる。包丁とまな板の音。

ほんのり漂う味噌汁の香りが、どこか現実に引き戻してくれる。


シャワーを浴びて、肌に残るぬるい水滴をタオルで拭いながら、鏡を見る。

昨日の自分と同じ顔なのに――目の奥が、少し違う気がした。

濡れた髪を撫でつけながらリビングに戻ると、凜がエプロン姿で振り返った。


「おはよう、啓斗。ちゃんと起きれたね」


「……うん。おはよう」

食卓には、焼き鮭と卵焼き、白いご飯。

いつも思うが、普段のちょっとS気のある性格からは想像できない、意外なほど家庭的な光景に驚かされる。


「朝はちゃんと食べなきゃ、ダメだよ」

凜はそう言いながら、お茶を注いでくれる。


「……いつもありがとう。美味しそう」


「ふふっ。まぁ、料理は好きだから」


笑う顔が優しすぎて、逆に落ち着かない。

僕の中ではまだ、昨夜の支配的な凜のイメージが色濃く残っているのに――。



食べ終わると、凜が席を立ってリビングの棚から紙袋を持ってきた。


「昨日、啓斗から貰ったデパコス。せっかくだから今日使おうと思って」


「えっ……あの、昨日の……」


そう言って凜は僕の前に椅子を置き、手早くメイク道具を並べ始めた。

ファンデーション、パレット、チークブラシ――

すべて整然と並ぶ姿が、まるで儀式の準備みたいに見える。


「次からは自分で出来るように、ちゃんと覚えてね?」


「え、えっ……僕も本当にメイクするの?」


「当たり前でしょ。女の子になるって決めたの、啓斗なんだから」


「そんなこと……一言も言ってない……」

凜の声には、柔らかい笑みと、逃げ道を封じるような圧が混ざっていた。


頬にファンデーションを滑らせる指先が、心地いい。

だけど同時に――その“やさしさ”が怖い。

凜の支配はもう、命令じゃなくて“自然な日常”のように染み込んでいく。


「目を閉じて。……うん、いい子だね」

凜の声に従って目を閉じると、瞼の上にふわりと筆の感触。

香水のように甘い匂いが鼻をかすめて、心臓が早くなる。


「啓斗、昨日よりずっと女の子の顔になってる」


「や、やめてよ、そんな言い方……」


「ふふ、照れてる」

凜が笑う。その声だけで、顔が熱くなる。


メイクが終わると、凜は昨日買った、もう一着の地雷系のブラウスを差し出した。


白のフリル、胸元のリボン。


「昨日の服は夜のうちに洗っておいたよ」


「……あ、ありがとう」


「これから色んな服着れるよ。楽しみだよね」


「そ、それって……」


「いろいろと可愛いお洋服、買っておいてあげるよ」

胸の奥がずしりと重くなる。

“女の子の服”を差し出されているのに、拒否できない。

まるで僕が――自分から着たがっているみたいに。




凜はスマホを触りながら、無邪気に笑う。


「今日は、啓斗が行った百貨店行くよ。昨日も言ったけど」


「本当に行くの?」


「昨日メイクしてもらった美容部員さんに、お礼言わなきゃ。ね?」


外に出ると、午前の日差しがまぶしい。

冷たい風がスカートの裾を撫で、素肌に触れる。

昨晩と違い、闇に隠れる事ができない。俯いていても顔が見えてしまう。


凜はそんな僕を横目に見て、軽く笑う。


「大丈夫、誰も気にしてないよ。啓斗が思ってるほど、みんな他人に興味ないから」


「……でも」


「まぁ、啓斗が可愛いから、つい見ちゃうかもだけど?」


「……っ」

その一言で、顔が一気に熱くなった。

何より可愛いと言われて、悪い気分がしなくなっている自分にも驚いた。



百貨店に着くと、昨日のあのコスメフロアの匂いがまた鼻をくすぐった。

甘くて、どこか人工的な花の香り。

そこに立っているだけで、女の世界に迷い込んだような気分になる。


「……あ、いた。あの人だよ、昨日の美容部員さん」


凜が指差した先には、水野沙耶香(みずの さやか)さん――昨日、僕に“メンズ”メイクをしてくれた人。


彼女の視線が僕たちを見つけ、ぱっと表情が明るくなる。


「あっ!昨日のお客様」

沙耶香さんが駆け寄ってくる。


「昨日はありがとうございました。隣にいるのが彼女さんですね、昨日お誕生日だったんですよね?お誕生日おめでとうございます」


凜がすぐに笑顔で頭を下げる。


「ありがとうございます!こちらこそ、啓斗を可愛くして頂いてありがとうございます」

二人は相性がいいのか、初対面なのに会話が止まらない。


沙耶香さんは嬉しそうに頷く。


「そうなんですよ!昨日は女性向けのメイク体験を行っていたんですけど――『男の僕でも可愛くなれますか?』って聞かれて……。ちょっと驚いちゃいましたけど」

「えっ!?ちょっと……そんなこと言ってない!」


「え~?そうだった?」

凜が口元を押さえて、わざとらしく首を傾げる。


「啓斗、自分から女の子になりたかったんじゃん。正直に言えばいいのに」


「ち、違うって……!」

言い訳が喉の奥で空回りする。

足の先から頭まで、熱が一気に上っていく。



沙耶香さんはくすっと笑って、


「それに今日は可愛らしい恰好ですね。素敵な彼氏さんで羨ましいです」


「い、いや、これは……」

言葉を探す間もなく、凜がまた口を開いた。


「あっ、彼氏じゃないんですよ。昨日から彼女になったんです」


沙耶香さんが楽しそうに笑う。


「まぁ、そうだったんですね。素敵な彼女さんですね」

笑いながら言われるたび、空気が熱くなった。



凜は沙耶香さんとLINEを交換していた。

よっぽど馬が合ったらしい。


「沙耶香さん、素敵な方だったね。私も試供品とかいろいろ頂いちゃったよ」

楽しそうにスマホを見つめる凜の横顔を、僕は言葉もなく見ていた。


外に出ると、午後の光が眩しい。

街を歩くたび、視線が肌に刺さる気がして、スカートの裾を指先でぎゅっと掴んだ。

でも、凜はそんな僕の隣で、いつも通り穏やかに微笑んでいる。


「ねぇ、啓斗」

信号が赤に変わった瞬間、凜が小さく囁く。


「明日、大学でみんなに改めて“彼女”として紹介してもいい?だから女の子の服着てきてよ」


「……は?」

思わず振り向くと、凜の瞳がまっすぐ僕を見ていた。


冗談みたいな声なのに、その奥はまるで本気のように静かだ。


返事を探す間もなく、凜が僕の唇にそっと指を当てた。


「大丈夫。可愛いんだから。啓斗は、もう女の子なんだよ」

耳元で囁かれた声が、胸の奥をくすぐる。

否定しなきゃと思うのに、なぜか喉が詰まって言葉が出ない。

風がスカートを撫で、頬を掠める髪が甘い香りを運んでくる。


――違う。俺は、男で……。

そう言いかけた瞬間、鏡のようなビルの窓に映る“女の子”の姿が目に入った。

誰かのようで、でも確かに“僕”で。


胸の奥が、ほんの少しだけ熱くなる。

それが羞恥なのか、心地よさなのか、自分でもわからなかった。


――第7話へ続く。

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