食事を終えてレストランを出ると、夜風が肌を撫でた。
ファンデーションの膜越しに受ける風は、いつものそれと違ってやけに敏感に感じる。
頬に残るほんのりとした熱が、まだ冷めない。
「ふぅ……ごちそうさま。啓斗に誕生日をお祝いして貰って嬉しかったよ!ありがとう。じゃあ……行こっか」
凛は自然に僕の腕を取る。
その笑顔は、レストランでの“あのお願い”の続きを当然のように実行する顔だった。
「ど、どこに……?」
「決まってるでしょ。服、買いに」
「でも……こんな時間、もう服屋さん閉まってるし……」
弱々しい抵抗をすると、凛はくすっと笑った。
「大丈夫。ドンキなら開いてるから」
その一言に、血の気が引く。
夜の街で、しかもドンキで――。
誰が来てもおかしくない場所で、女の子の服を探すなんて。
◆
繁華街のネオンが光る。
ドンキの入り口に掲げられた派手な看板と、夜でも途切れない人の流れ。
店内から漏れ出る雑多な音楽とアナウンス。
足がすくむ僕を、凛は当然のように引っ張って中へ入っていった。
「こっちこっち、レディースの服があるコーナー」
人混みをかき分けて辿り着いたのは、フェミニンなレディースの服がぎっしり並ぶコーナーだった。
レース、リボン、フリル。甘ったるい香水の匂いが漂ってくる。
目が痛くなるほどピンクと黒に支配された空間に、息が詰まった。
「わぁ、やっぱりこういうの似合いそう!」
凛は目を輝かせて、次々とハンガーを取り出す。
フリルブラウス、レースアップスカート、厚底ローファー。
“地雷系”、“量産型”そんな言葉が頭をよぎった。
「ちょっ、凛ちゃん……無理だって、こんなの……!」
「なに言ってるの。せっかくここまで可愛くされてるんだもん、最後までちゃんとしなきゃ」
楽しそうに笑う声は、完全に僕をおもちゃ扱いしている。
◆
「はい、これ持って。試着室行こ」
両手に数着の服を押し付けられ、僕は引きずられるように試着室へ。
カーテンを閉めた小さな空間に入ると、全身から汗が噴き出す。
天井から吊るされた裸電球の光がいやに眩しくて、落ち着かない。
鏡の中には、すでに“女の子の顔”をした僕。
そこに、この服を重ねるのか――想像しただけで膝が震えた。
「ねぇ、早く着替えて見せて?」
外から凛の声。
ドキリと心臓が鳴る。
「……やっぱり無理だって……こんな……」
「私の誕生日だよ?今日ぐらいは私にわがままに付き合ってよ?」
甘えるようでいて、強い響きを持った声。
逃げ場を塞ぐ。
僕は震える手でワイドパンツを脱ぎ、レースのスカートを腰に通した。
柔らかい布が足を包む感触が、全身を痺れさせる。
ブラウスの袖を通し、リボンを結ぶ。
ボタンを留めるたび、男の体から遠ざかっていく気がした。
最後に厚底ローファー。背がさらに高くなる。
不釣り合いなのに、鏡に映った姿は――想像以上に、女の子に見えた。
「……できた、けど……」
「見せて!」
しぶしぶカーテンを開けると、凛の目がぱっと輝いた。
「やっぱり!めっちゃ似合う!啓斗、完全に地雷系女子だよ!」
「な、なんでそんな嬉しそうなんだよ……」
「だって彼氏がこんな可愛いとか、最高でしょ」
笑顔でスマホを構えようとする彼女に、慌てて手を伸ばした。
「やめてっ!撮らないで……!」
「ふふ、今はやめとく。でも後で絶対記念撮影しよ?」
にやにやと笑う彼女に、言葉が出ない。
羞恥と恐怖で、心臓が暴れまわっていた。
◆
服を決めた後は、ウィッグコーナーへ。
壁一面に並ぶカラフルなパッケージ。
黒髪ロング、ゆるふわパーマ、ツインテールまで。
「んー……やっぱり黒ロングかな。清楚っぽくていいし」
凛が選んで僕の頭にあてがう。
鏡に映るのは――もう完全に、見知らぬ“女の子”だった。
化粧と服とウィッグ。三点セットで、僕は完全に作り替えられていた。
「……っ、これ、僕じゃない……」
「違うよ、啓斗でしょ。私の“彼女”になった啓斗」
凛の言葉に、全身が震えた。
でも彼女は楽しそうで、幸せそうで――僕は何も言い返せなかった。
「店員さんにこのまま着て帰れるかどうか聞いてくるから待ってて」
「は!?えっ、ちょっと……」
言うが早く、凛は僕を置いてレジの方に向かっていってしまった。
◆
タグだけ切ってお会計をして貰い、買い物を終えた。
僕の身体には、ピンクのフリルブラウスに、黒のミニスカート。
厚底のローファーが床を叩き、胸元のリボンが小さく揺れる。
鏡の中で見た“地雷系ファッション”そのままの姿。
「ほら、帰ろ?」
凛が当然のように手を握る。
その小さな掌が頼もしくて、でも逃げ場を塞がれているようで。
羞恥と屈辱と、不思議な高揚感に飲み込まれながら、僕は彼女と並んで歩いた。
向かう先は――凛の家。
女の子にされてしまったままの姿で……。
【4章へつづく…】
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桜梅桃華@女装・TSF小説
2025-09-24 14:16:26 +0000 UTCyuu02
2025-09-23 12:58:17 +0000 UTC